精神科女医の健康談義

精神科医の立場で精神科医療や栄養療法、漢方治療などについてわかりやすくお伝えしています。

認知症発症の危険因子ー第9回認知症予防学会ー

名古屋国際会議場で開催されている、第9回認知症予防学会に来ています。

 

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2017年にランセットで、認知症発症の危険因子については以下のように発表されています。
修正可能な要因は35%、修正不可能な要因は65%です。修正不可能なものは主に遺伝的な要因です。


修正可能な要因は各年代によって異なります。


18歳未満では低い教育レベルが危険因子になります。

これは修正可能というか、親の心がけ次第かもしれません。
45歳~65歳つまり中年期では、肥満が1%、高血圧が2%、難聴が9%のリスク因子となります。

難聴が9%!なんと肥満や高血圧を抑えて圧倒的な高さです。これは最近のトピックスでもあります。もちろん難聴であれば、コミュニケーションに支障が来し、対人交流を控え、引きこもりがちになる可能性があります。こうなると社会的フレイルにつながり、認知症の原因となりそうです。学会では早期の補聴器や聴力訓練などがあげられていましたが、これらによる効果はまだ明らかではありません。

とりあえず難聴の方には、不便でも人とコミュニケーションをとるように、補聴器を使ってでも外に出ましょうとお伝えするのが良さそうです。

老人性難聴の原因について調べていると、内耳機能の低下だけでなく、脳の中枢機能の低下も原因になるとのこと、そして酸化ストレスにより進行が早くなる、つまり動脈硬化や高血圧、糖尿病などとの関連も強いようです。
・・・・つまり原因は認知症とかなりオーバーラップ・・・というかほぼ同じです。認知症と難聴は原因が共通で、お互いがお互いをリスク要因と考えているようです。そうであれば、補聴器をつけたぐらいでは大した予防にはならないでしょうね。やはり、もっと若いころから生活習慣による対策が必要で、難聴も認知症も予防しなければなりません。
ただ難聴と認知症の関係に関してはもう少し研究結果を待ってみようと思います。

 

65歳以上つまり高齢期では糖尿病が1%、社会的孤立が2%、運動不足が3%、抑うつが4%、喫煙が5%です。


注意が必要なのは年齢によってリスク要因が異なるということです。中年期では肥満がリスク要因ですが、高齢期では痩せすぎの方がリスクとなります。これは肥満のパラドックスと言われているそうですが、分子栄養学的には中年期の肥満は脂肪肝高血糖などによる慢性炎症を引き起こし、当然認知症のリスクが上がる、高齢期での痩せすぎは、必要な栄養素の欠乏と関連するので、当然こちらも認知症のリスクが上がりますね。


喫煙のリスクに関しては、過去の喫煙ではなく現在喫煙している、ということがリスク要因になるようです。つまりずっと吸ってるから今更やめても一緒と思わずに、今から禁煙することが大切ですね。


うつに関しては、中年期までのうつは認知症と関連を認めず、高齢期のうつが関連するとのこと。これは臨床をしていて実感することと一致します。しかし臨床で経験する中で高齢期のうつ病は、うつの診断基準を十分に満たし、認知症を除外診断できたとしても、認知症の初期もしくは前段階を見ているのかもしれないと感じることも多く、ここは関連性の評価は難しいところです。


あと面白かったのが、歩行速度の低下はMCI(軽度認知機能低下、認知症の前段階)の発症に先行するというものです。男性はMCI発症の15年前、女性は5年前から、歩行速度ががくっと落ちることがあるそうです。横断歩道を青のうちに渡れなくなってくると、注意が必要かもしれませんね。

 

現在、抗認知症薬の開発は停滞しています。それは認知症は発症の何年も前から脳の細胞レベルでの変化は始まっていること、そして認知症の原因が多岐に渡るからといえるでしょう。

 

できる限り若い頃から予防となる生活習慣を心がけたいものです。

 

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