うつ病の新たな治療①-うつ病と炎症の関係ー
最近は、うつ病や自閉症、アルツハイマー型認知症に、脳内の炎症が関係しているという報告が相次いでいます。予防医学の分野では、いかに炎症をおさえるかというのが、老化を抑える非常に重要な要素となっています。
先日、岩田正明先生(鳥取大学医学部脳神経医科学講座精神行動医学分野)の「うつ病の病態理解~ストレスによる脳内炎症~」という講演を聞く機会がありましたので、2回にわたって紹介したいと思います。
うつ病と炎症
現在、うつ病の病態には様々な仮説がたてられています。
遺伝的要因、神経内分泌仮説、モノアミン仮説・・・それらと肩を並べる一つという位置づけで神経炎症仮説を報告されています。
うつ病と炎症については、以前から関連性が指摘されていました。
風邪をひくと、食べられない、しんどい、やる気がおきない、気が滅入るなどの症状がでます。これを「Sickness behavior 感染が引き起こす精神症状」といいます。つまり、感染によって、うつに類似した症状を起こすということです。
これはウシでも報告されており、ウシが感染すると、マクロファージが炎症を感知して、炎症性サイトカインを出す、これが脳の神経に作用することで、眠れない、食べられないなどの症状を引き起こす事もわかっています。
以前から、うつ病患者さんの血液では炎症性サイトカインの上昇があることや、ストレスが血液中の炎症性サイトカインやCRP(炎症を反映する値)を上昇させることなどがわかっています。
炎症とうつ病に関連があることは間違いなさそうですね。
ストレスが炎症を引き起こす経路
ストレスがうつ病発症の引き金になることがありますが、ストレスと炎症はどう関係してるのでしょうか。
今回の講演では「ストレスが脳内の炎症を引き起こす」メカニズムが紹介されていました。
ストレスにより、脳内で炎症性サイトカインが産生されて、それが神経を障害するという内容です。
メカニズムは以下の通りです。専門的な内容になっているので、読み飛ばして頂いても差し支えありません。
ストレスにより、脳内のグルタミン酸が上昇し、それが脳内ATP濃度を上昇させます。ATPが脳内のmicroglia(免疫担当細胞)のP2X7R受容体にくっつくと、細胞内の受容体であるNLRP3が活性化し、インフラマソームが起こり、炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNFα)を産生します。この炎症性サイトカインが神経細胞を障害します。
うつ病患者さんでは血中NLRP3濃度が高く、回復すると健常者と同程度まで低下することがわかっています。
このNLRP→炎症性サイトカインは糖尿病、肥満、アルツハイマー型認知症、喘息など様々な病態に関係していることも指摘されています。これらの疾患も炎症とかなり関連が深いということですね。
炎症を抑えて、うつを治療する
炎症の経路を抑え、炎症性サイトカイン産生を抑える事がうつ症状の予防や進行抑制になりそうです。
先ほどのATPがくっつくP2X7R受容体の阻害薬や、炎症性サイトカイン(IL-1β)の中和抗体なども研究開発されているようですが、治験での脱落や価格の問題で現在は実用化には至っていないようです。
そこでBHBという物質がNLRP→インフラマソームの過程を制御し、うつ症状を改善することが明らかとなってきました。
BHB(βーヒドロキシ酪酸)は非常に身近で、私たちの日常にも取り入れることができそうなので、BHBはに関しては次回詳しく説明したいと思います。
参考文献:ストレスが脳内炎症を介してうつ病を誘発する機序の解明と新たな治療法の開発 岩田 正明