精神科女医の健康談義

精神科医の立場で精神科医療や栄養療法、漢方治療などについてわかりやすくお伝えしています。

考えすぎると健康を害する

考えすぎると健康を害する。

I think too much and then put myself in a bad mood.

先日漢方の講演会で、富山大学大学の渡り英俊先生、順天堂大学の栗原由美子のご講演を聞く事ができました。

そこで栗原先生が紹介されていた言葉です。

 

典型的なうつ病の方をみていると、過去を悔やみ、将来を憂い、常に考えすぎている方が多いように思います。

 

漢方治療では、こういった人には「帰脾湯」がよいそうです。

帰脾湯を飲みだして、しばらくすると「気楽に思えるようになった」「考え込むことが少なくなった」と効果を実感する方がおられるようです。

 

帰脾湯というおは気血双補剤の一つで、漢方でいうところの「気」と「血」を補ってくれる薬剤です。人参や黄耆、甘草、当帰、生姜、大棗などを含みます。

帰脾湯は古来より健忘に用いられてきたという歴史があります。現在マウスレベルで記憶障害や脳の神経の変性が改善されるなどの研究結果がでつつあります。

一般的に帰脾湯の適応としては、虚証で貧血や不安、不眠がある人ですが、認知症の人に用いると認知機能とこれらの症状があわせて改善される可能性があります。

依存性がない、ふらつきや転倒がないなどのメリットもあり、高齢者にも使いやすいですね。

うつ病の患者さん、特に初老期の方は「頭が働かない」「思い出せない」「覚えられない」と言い、「認知症に違いない」と訴える方が非常に多くみられます。

うつ病による思考力の低下や不安などから、こういった訴えになると考えられますが、

こういった方にも帰脾湯というのは一役かってくれそうです。

 

その他、不定愁訴(Medeically Unexplained Synptoms)に対して効果のある漢方として、半夏厚朴湯、柴胡加竜骨牡蛎湯柴胡桂枝湯乾姜湯、十全大補湯、五苓散、当帰芍薬散、八味地黄丸、牛車腎気丸などを紹介されていました。これらは精神科医であれば上手く使えるようになりたい漢方薬です。

 

ラソンに向けて準備をしてる私としては、この中で五苓散の熱中症予防という効果に注目しました。

五苓散は利水剤であり、浮腫みなどの水毒の治療として使われます。利尿薬と違い

体内の水分のバランスを整えます。日常的であれば、二日酔いの予防や、気圧の変化による頭痛に使うことがあります。最近では慢性硬膜下血腫の治療にも用いられるようになっています。

そして最近になって五苓散は細胞膜のアクアポリンという、水が唯一通れるチャネルに作用することがわかってきました。科学が漢方に追い付いてきた例の一つですね。

前置きが長くなりましたが、水を調整するということで高齢者の熱中症の予防にもよとのことです。

ということはランニング前に飲むと熱中症や脱水予防になるのではないでしょうか。

ランニング前には足がつるのを予防するために芍薬甘草湯、脱水予防に五苓散、この二つで決まり!という日がくるかもしれません。

 

栗原先生は「最大多数に有効な治療(ガイドライン)ではなくその人に有効な治療を行う」とおっしゃっていました。私も座右の銘にしたいほど、共感できる言葉でした。
現在の医学はエビデンス偏重主義ですが、漢方治療や栄養療法では個体差、つまりその人自身がどういう遺伝的体質で、何が不足もしくは過剰となっている状態で、症状が出ているのかを考えて治療を行います。そこには無作為に選んだ患者さんの中の、大半に効果があった治療を行うわけではありません。

目の前の患者さんに効果のある治療を模索し続けたいものです。

 

f:id:sakuranbo23:20191117223537j:image