精神科女医の健康談義

精神科医の立場で精神科医療や栄養療法、漢方治療などについてわかりやすくお伝えしています。

うつ病の新たな治療②-炎症を抑えるにはー

前回の続きです。

前回はうつ病の病態の一部は炎症が関与しているというものでした。

では、脳内の炎症を制御すれば、うつ病の予防になる、もしくは一部のうつ病は改善するのではないかということです。

 

 

 

 

BHBの投与が脳内で炎症を制御する


BHBは、ケトン体の一種です。飢餓時に、脂肪酸の酸化によって、肝臓や腎臓で産生されます。ケトン体は、糖質制限によって出てくることで有名ですね。
以前は、脳はブドウ糖しかエネルギー源として使えないと思われていましたが、ケトン体も第二のエネルギーとして利用できる事がわかっています、
それどころか、ケトン体は脳を穏やかにする、集中力、記憶力を向上させるなどと言われています。

そのケトン体であるBHBに、前回お話したNLRPの活性を抑制し、炎症性サイトカインの産生を制御する働きがあることがわかりました。
BHBは元来生体内にあるもので、血液脳関門を容易に通過するので、治療薬としては非常に使いやすいと考えられます。
マウスの実験ではBHBの抹消投与(体の血管から投与すること)は脳内のBHBの濃度を上昇させ、抗うつ効果を認めることがわかりました。そしてストレスによって上昇する脳内の炎症性サイトカイン(IL-1β)濃度を抑制することもわかりました。

 

中鎖脂肪酸の摂取でうつ症状がよくなる


ただ経口投与(口から飲む)のBHBでは、容易に分解されて効果が得られません。そこで中鎖脂肪酸MCT)の経口投与が有効であることが動物実験で確認されました。
(BHBは非常に高価、MCTは安価なのも、なおよい点です。)
通常、体内にブドウ糖が十分にある時には、ケトン体は作られにくくなっています。しかしMCTは、摂取後直接肝臓まで運ばれ、容易にミトコンドリア内に入ることができるので、体内にブドウ糖があってもケトン体を効率的に作り出すことができます。
つまり、糖質制限をしていなくても、糖質制限中のような状態にもっていけるんですね。
MCTを内服すると、BHBに変化します。MCTの経口投与でもBHBの抹消投与と同様に抗うつ効果が得られ、脳内の炎症を抑制できることが確認されました。

現在BHBによる抗うつ治療を臨床的に応用できるよう研究をすすめられているようです。


MCTオイルを飲むというのは試してみる価値あり

 

ここからは私見ですが・・・
ケトン体であるBHBを増やすために、うつ病の方は糖質制限を試してみてもいいかもしれません。

糖質制限の注意点は過去のブログを参照ください。)
現在、市販でもMCTオイルは売っています。(中鎖脂肪酸含有オイルなどは含有率が低いのでほぼ効果は見込めないと思います)これを試してみるのもよいかもしれません。

まだ研究段階ではありますが、安全性が高い、お金もあまりかからない治療というのは試す価値があるように思います。

 

ただMCTの飲み方には工夫がいるようです。

それはまた来週にお伝えしたいと思います。

 

(糖尿病患者の方はケトン体が上昇すると糖尿病ケトアシドーシスを起こすことがあるので主治医にご相談ください。)

 

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参考文献:ストレスが脳内炎症を介してうつ病を誘発する機序の解明と新たな治療法の開発  岩田 正明