精神科女医の健康談義

精神科医の立場で精神科医療や栄養療法、漢方治療などについてわかりやすくお伝えしています。

精神科の5分診療について

病院が5分診療と揶揄される事を多々見かけます。もちろん精神科も例外ではありません。精神科なんてゆっくり話をしてなんぼと思われているかもしれません。

私の外来では、30分で4,5人は診なければならない状況です。勿論ゆっくり診療できるのが一番ですが、たくさんの患者さんを診るということも同様に重要だと考えています。5分診療に近い状況ですが、その実情についてお話したいと思います。

予約制なので、こちらも患者さんを待たせたくない気持ちは常にあります。患者さんが渋滞してくると、ひたすらマラソンを走り続けているような心境になることがあります。

患者さんが診察室に入った瞬間から、とにもかくにもゆったりとした口調や表情を心がけます。精神科では、治療中断による病状悪化が多々存在するので、患者さんにも「来てよかった、またこよう。」と思ってもらえることが大変重要です。

この瞬間から五感はフル活用です。患者さんの表情、化粧、髪型、服装、持ち物、歩き方などを瞬時にチェックします。気分は表情から読み取り、化粧がいつもより濃い場合や服装が派手な場合、持ち物が多い場合は気分が高揚していないかを注意します。荷物が多い場合には物取られ妄想のような被害妄想が強くなって、通帳やらなんやら貴重品全てを持参している場合もあります。表情や歩き方から薬の副作用が出ていないかも確認します。患者さんが着席するまでにかなりの情報を得ることができます。

着席後、まずは患者さんの話を聞きます。内容はもちろん、声量や話のまとまりなどにも注意を払います。悲観的で口数が少ない場合は抑うつ状態を、誇大的で多弁、多幸的な場合は軽躁状態を考えます。こちらに攻撃的になっている場合もあり、妄想や易怒性、被刺激性などが高まっていないかも注意します。

少し途切れた所でこちらから質問をします。いつもと変わりない様子であれば、患者さんが話した内容を掘り下げる質問をして、その方の生活や人となりをできるだけ知るようにしています。些細な情報でも以降の診療でとても役に立つことがあります。

病状が悪化している兆候を掴めば、その人に特化した質問をします。例えば、調子が悪くなると母親と喧嘩する人には、最近お母さんとはどう?とか、買い物しすぎる人には何か買い物した?とか、親の介護でうつ状態の人にはお父さんの具合どう?などです。

そして病状が悪化するような生活上の転機がなかったかを尋ねます。すると「実はかわいがってくれた伯母が亡くなって・・・」「今月から子供のお弁当を作らないといけなくて・・・」などと話しくれる場合もあります。

季節によっても様々な状況が予想されます。年末は孫達が集まってくるので準備のことを考えて眠れなくなる、春休み、夏休み、冬休みは手のかかる子供が家にいて疲弊する、など家庭の中の役割によって注意すべきタイミングも頭においておきます。

そして精神科医としての知識を総動員して、できるだけ簡潔に助言します。症状に対しては、こちらも知識を総動員して薬の調整行います。

具合が悪い人には何とか次の外来まで持ち堪えてくれるように、言葉を選びます。また外来で待ってます、限界が来たらいつでも入院できますからね、など。いずれも心からお伝えするようにすると、何んとなしに届いているような気がします。

これらを短くて5分、長くて10分で行います。

この時間が短いのか長いのかわかりません。しかし長くても短くてもやる事は同じです。ただ患者さんも満足度を考えるとやはり時間をとりたい気持ちは山々ですが・・・。

再診外来ではこんな感じですが、初診外来では幸い1時間近く時間がとれるので、生活歴を含めてしっかりと聞き取ります。そこで時間をとって見通しやだいたいの治療方針を伝えると、ほとんどの方は再診以降、このぐらいの時間でもあまりクレームを言われる事はありません。

ベテラン級の患者さんはその日の外来の人数を見て、短く切り上げたり、ゆっくり話していかれたらと調節してくれます。有り難い事です

患者さん急遽入院になった時は、手続きもろもろで、かなり時間が押す事になります。しかし待合で具合の悪い患者さんを見ていたせいか、皆さん根気よく待ってくださいます。

 そう考えるとこの5分診療は患者さんの心遣いで成り立っているのかもしれません。

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