精神科女医の健康談義

精神科医の立場で精神科医療や栄養療法、漢方治療などについてわかりやすくお伝えしています。

GLP-1注射がブームです。

現在GLP-1注射がダイエット界のブームです。

この注射はダイエット界の歴史を塗り替えると言っても過言ではないと考えています。

 

GLP-1注射は本来糖尿病の治療目的で用いられる注射です。私は糖尿病は専門ではないので、この注射の理解のためにいくつか本を読みました。

最近の糖尿病治療のトレンドを知る上でこの本が非常に役に立ったので、紹介したいと思います。

 

糖尿病はグルカゴンの反乱だった -インスリン発見後、なぜ未だに糖尿病は克服できないのか

糖尿病はグルカゴンの反乱だった -インスリン発見後、なぜ未だに糖尿病は克服できないのか

 

 

沼津さとやまクリニック院長の稙田太郎先生の書かれた本で、2019年4月19日初版です。

この本では、糖尿病は「インスリンの欠乏」よりむしろ「グルカゴンの過剰」に原因があるということを、様々な研究論文を提示しながら述べられています。

一般的に、血糖が上がるとインスリンが分泌され血糖が下がり、血糖が下がるとグルカゴンが分泌され糖新生が起こり血糖が上がると認識されています。

このレベルで知識が止まっていた私には非常に興味深いな内容でした。

血糖が上がると膵島内が高インスリンの状態になります。膵島内の高インスリン状態が、同じく膵島内でグルカゴンの分泌を抑制します。そして糖尿病などで、インスリンが欠乏すると、インスリンによる抑制がはずれてグルカゴンが好き放題に暴れだし、血糖を上げる、場合によっては上がってる血糖を更に上げる可能性がある、という事が述べられていました。

例えインスリンが欠乏していても、グルカゴンを抑制できれば糖尿病が発症しないという研究結果まででてきています。

従って従来の治療のように、不足しているインスリンを補充する、作用を高めるだけの薬剤では、(特に1型糖尿病で)血糖コントロールがうまくいかないという事態が生じます。

そこでグルカゴンをいかに抑えるかという事が治療の肝になってきます。現在、グルカゴンに焦点を当てた薬の開発が多数進んでいるようです。

現在ある糖尿病治療薬の中でも、グルカゴン抑制作用のある、インクレチン関連薬にも注目が集まっています。GLP-1注射もインクレチン関連薬の一つです。

 

GLP-1はもともと体内にあるホルモンです。

GLP-1は下部腸管のL細胞で作られ、食事刺激で血中に分泌され、血糖の高さに応じてインスリン分泌を増幅し、一方グルカゴン分泌を抑制します。また胃排出を遅らせることで食後の急峻な血糖上昇を防ぎます。さらに中枢神経系を介して食欲を抑え、満腹感を高めます。

 

そしてGLP-1は更に全身に対して多彩な作用を有しています。

肝臓で脂肪肝を改善させる、脳では神経保護的に作用し神経新生を促す、心臓に対しても保護作用を持ち、褐色細胞に働きかけ熱産生を促す、免疫系では炎症を低下させるなどです。(Muskiet MHA et al.:Nat Rev Nephrol 13(10):605-628,2017)

 

ダイエット目的で使用したとしても、全身に対して抗加齢的な作用をもたらしてくれそうです。

 

実際に私もこのGLP-1注射を、1か月使用してみました。

効果は以下のとおりです。

①食後高血糖、夕方の反応性低血糖がなくなった。

これは実際にリブレを用いて確認しましたが、GLP-1注射を開始して以降、血糖スパイクが皆無になりました。食後高血糖インスリンの初動分泌が遅れ、グルカゴンの抑制がきかずに生じると考えられますが、インスリンの分泌促進、グルカゴン抑制によって高血糖がなくなり、その分、インスリンの過剰分泌が抑えられ、反応性の低血糖もなくなったように思われます。

これによって夕方の疲労感がかなり軽減され、夕方以降の家事などの活動がしやすくなりました。反応性低血糖がいかに生活に支障を来すのかを、改めて実感しました。

②体重が2㎏減った。

2年ほど前に仕事が忙しくなりジムに行く時間が減り、体重が2㎏増加して以降、全く戻る気配のなかった体重がストンと落ちました。

胃内容物の排泄遅延、脳への食欲抑制作用のためか、全く空腹を感じず、間食などがなくなりました。褐色脂肪で熱産生を促す作用のせいか、よく汗をかくようになりました。

ベスト体重に戻ったおかげで、体はすっきりと軽くなりました。

 

他にも、実感はできないものの、脳や心臓や肝臓などに対しても長期的に良い効果は多々あると考えられます。

 

今回、私が使用したものは週に1回注射をするlong actingタイプのものでした。毎日注射をするshort actingタイプの方が、食後血糖を低下させる作用や体重減少作用は強いといわれています。しかし注射の痛みや手間がありますので、週に1回のタイプも十分にメリットがあると思います。

副作用は消化管の蠕動運動を抑制するため、嘔気、便秘、イレウスなどがあります。私も注射を始めた当初は便秘気味になりましたが、2週間後ぐらいには改善していました。

デメリットとしては、金額がかかることです。糖尿病でない限りは保険適応にならないため、それなりに高額となります。

そして安全性に関しては、あくまで糖尿病の人を対象とした治験で確認されているため、糖尿病でない人が使用した場合の長期的な影響は確認されていません。理論上では上記で述べたとおり、全身性に良い作用といえますが・・・。糖尿病治療以外の目的で使用するのであれば、しっかりと調べて自己責任で行う必要があります。

これまで、患者さんからダイエット目的で、サノレックスや脂肪吸収抑制剤などのダイエット薬の使用を相談された時には、副作用や弊害を考えおすすめはできないと答えていました。

しかし、GLP-1注射に関しては今のところ(金銭的な理由以外で)おすすめできない理由が見当たりません。

ダイエット目的で使用している症例も増えていると思いますので、しばらく注目して情報を収集していこうと思います。

そして、注射を中止した後の体重や血糖に関しても今後観察してみたいと思います。

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